素直で我儘な、大人たち。

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「アイスの差し入れ、本当は課長でしょ? なんでそんなことしたんですか?」  課長の顔を覗き返す。 「だって滝川さん、私からだと言えば食べてくれなかったでしょ? 最近ちゃんと食べてないみたいだし、心配で。何だったら食べてくれるか考えた時に、ゼリーだったら食べやすいかなと思って買って行ったら、半分食べてくれて、半分は凍らせて食べていたから、『じゃあ次はアイスにしよう』と思って」  笑顔で答える課長。 「……え。ゼリー食べてるところ、見てたんですか?」  誰もいないと思って、一人で『冷たい』だの『美味い』だのとリアクションしていたところを見られていたとは……。 『やってしまった』と額に手を置きながら半歩課長から遠ざかると、 「コラコラ。引くな引くな。こっそり見てたことは気持ち悪いだろうとは思いますが、ガッツリ見てたら食べるのやめてしまったでしょう? ゼリー、美味しそうに食べてくれて嬉しかったです」    課長が私の二の腕を掴み、元の位置まで引き寄せた。 「別に気持ち悪いとは思ってなくて……ひとりでゼリーの感想を口にしていたところを見られていたのがちょっと……」  無意味に視線を斜め下に向けている私に、 「面白かったです。あ、可愛かったです」  1回失敗しながら課長がフォローを入れた。 『ハハハ』  そして2人で笑い合う。
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