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曳野とウサミミとミチルは、事務所でコーヒーを飲みながら今回のことを話した。
ウサミミが、しんみりと言う。
「結局、亜里さんを好きだったってことですね。アイロンの傷を隠すためのリストバンドも、誤解に拍車を掛けてしまったんですね」
曳野は、それを否定した。
「本人はそう言ったが、後付けの言い訳だね。やはり、恋愛感情ではなくて、ヒーロー願望をこじらせたのが真実だと思う」
曳野は、最後まで持論を通した。
ミチルも亜里から真相を聞いたが、いまだに驚きから覚めない。
「学校では、亜里を守るヒーローとして人気が高まっていたところだったのよ。それが、自作自演とばれて、人気が出ていたから却って大変な騒ぎになっちゃった。これが、裏目に出るってことね。結局、みんなの非難の目に耐え切れずに自主退学しちゃった」
「やっぱり、ヒーロー願望だったのかな」
ウサミミは、統に突き飛ばされて擦りむいた傷がようやく癒えてきたところだ。
かさぶたがたくさんできて、ちょっとだけ痒く、ついつい触ってしまう。
猪瀬統は、自分のしたことがばれそうになった焦りで、曳野とウサミミを襲うことにしたと警察で供述したそうだ。
ウサミミの怪我に対しては、統が未成年ということもあり、弁護士が間に入って示談書という書類一枚で済まされている。
「お金が欲しいわけじゃないけど、せめて一言ぐらい謝って欲しかったですね」
「僕が襲われれば良かったなあ。ウサミミには、危険な目に遭わせて悪かった」
「いえ、所長のせいじゃありません。探偵たるもの、危険は覚悟の上です」
「少しは探偵らしくなってきたな」
「はい!」
ミチルは、コーヒーに砂糖を何杯も入れながら、「探偵って、危険なのね。私にはとてもできないなあ」と、二人に感心した。
一両目 終わり
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