擦る女

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 大学時代の話だ。  当時、同じ学科に属する友人に誘われて、僕は映画研究会なるサークルに入った。仮にこの友人をNとする。大学のサークル活動にはちょっとした憧れや興味もあったが、中学高校と部活動は何もしてこなかった為、これといってやりたいことを絞れずに、チラシを片っ端から受け取ってばかりだった。  そんな中、同じ学科で講義を受けた際に隣の席だったNが、この映画研究会に誘ってくれたのだ。僕も映画は好きだが、何度も観ては作品に対する批評や考察を述べるほど熱心ではない。N曰く「メンバーでDVDを持ち寄って観るだけで、特に決まりもない」と言うので、それなら気楽だなと深く考えずにサークルに入った。  サークル棟はキャンパスの表通りから校舎を挟んで西側、通称「裏坂」と呼ばれる緩やかな坂の脇に存在し、棟の半分ほどが坂に隠れるようにして建っている為、見つけるのに少し手間取った。  映画研究部は棟の一階、廊下の奥から三つ目の部屋で活動していた。廊下の奥側に近い部屋だったので、窓からの景色は坂の斜面に遮られて何も見えず、昼間でも薄暗かったが、映画を見る分にはかえって都合が良かった。  いざ入ってみると、確かにみんな空きコマの時間に集まって延々と映画を観ているだけで、「面白かったね」「これは微妙だったかも」「前作のほうが好きだったなぁ」と各々感想は口々にするものの、殆どがそんなに深く考えて観ているような感じではなかった。  活動らしい活動もなく、ただ空きコマに映画を観るだけ。しかし思いの外これが楽しく、すぐに他の新入生とも打ち解けて、講義が殆どない日でも朝から来ては、同じように朝から集まった者同士で雑談を交わしながら映画を観たり、誰かが持ってきた漫画を読んだり、携帯ゲームで遊んだりと自由に過ごしていた。サークル棟は秘密基地のようでついつい時間を忘れて、仲間たちとつるんでは入り浸る日々が続いた。  しかし、特に決まりがないとはいっても、流石にこのサークルにもいくつか決まりがあった。毎晩二十時頃になって陽が完全に沈むと、先輩たちは必ず我々を叩き出しては家に帰れと口を酸っぱくして言った。ようするに泊まり込み禁止だったのだ。
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