訪問者

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 高校最後の夏休みが始まった。  だからといって特に変わったことはない、独りで過ごす場所が教室から家に変わっただけ。そう自分に呟いてベットに寝転び小説を読む。  現実なんてつまらない……ただ辛いだけ、もし僕がこの本の中の一人の登場人物だったらどれだけ毎日が楽しいだろう、どれだけ充実した生活が送れるのだろう……。  物語が中盤に差し掛かったころ、インターホンが鳴った。  休日の夕方に誰だろう、回覧板だろうかと考えながら階段を降り、裸足のまま少し手を伸ばし玄関のドアを開ける。  ドアの向こうに一人の女の子が立っていた。 「おはよ!久しぶりだね<僕>、って言っても昨日も会ったよね。ほら、<僕>って学校だといつも静かだからさっ」  そう言って彼女は嬉しそうに笑う。  彼女は僕と小学校からの同級生、すごく仲良いという訳ではないが、友達と呼べる人がいない僕には唯一、少し会話が出来るクラスメイトである。  向こうからしたら、ただの、昔から知っている人、なのかもしれないが……。
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