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……。
船で行ける。そう言えば、勝手に港に降りていき、適当な船を奪ってこの地を去ってくれて、一件落着となるのではないか。
その希望も、叶わなかった。
ソラトは困った。
船を使って行くと言われても、すぐに調達する手段などない。
「あ、あの……」
「何だ?」
「僕、船持ってないんだ」
「そうか。船を持つ人間はどうやって入手しているのだ」
他の人間から奪え、とは指示しないのか……。
ソラトは少し違和感を覚えながらも、船はお金で買うものであり、現在の自分がお金を稼ぐ手段は冒険者稼業であることなどを説明した。
「なるほど。お前は冒険者。依頼をこなす仕事でお金が貯まっていく――それで間違いないのだな?」
「うん。そうだよ」
「では一番難しい依頼を受ければすぐ貯まるのか」
「そ、それは……無理なんだ。僕はまだ初級冒険者だから、受けられる依頼は簡単なものばかり。級が上がるのは少し時間がかかる」
「かまわない。私は待とう」
ドラゴンは、依頼をできるだけたくさん受けて、級を上げるよう指示した。
そして、こまめに報告に来ることも要求し、この日は下山するように言った。
「あ」
「なんだ」
「横穴の入口、もうちょっとしっかり隠したほうが」
「……そうか。わかった。ありがとう」
万一他の人間に見つかり騒ぎになった場合、自分が裏切ったと勘違いされ、殺される。
その心配から忠告をしただけだった。
しかし、このときの「ありがとう」という言葉は、妙にソラトの頭の中に残った。
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