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「あともって十年というところでしょう。」
茹だるような暑さの中、蝉がうるさいほど鳴く空の下僕は医師にそう告げられた。
僕の病気は既に進行しており、治療で止めることは出来ても完治させることは出来ないらしい。
医師がそう告げた時、僕の頭は自分が可哀想だとか、死への恐怖だとか、そんなものは一切無く、ただ一つの想いが込み上げてきた。
加奈恵に告白しなければ。
「で、話って何?」
同じクラスの西条加奈恵。保育園からの腐れ縁で、高校も三年間同じクラスだった。
加奈恵は僕の家からおよそ三十秒程歩いたところにあり、帰りもよく一緒に帰った。でも恋人同士ではない。
僕はこの関係でも構わないと思ったし、もし加奈恵に彼氏ができればそれでいいと思った。その時は一緒に帰ることもやめるし学校で話す回数も少なくなるだけ。
しかし僕はあと僅かな時間しか生きられないと知った時、残りの人生のことを考えた。
そこに映るのは加奈恵と結婚し、子どもを産んでもらい、家族で幸せに暮らす未来だった。
それは叶わない夢かもしれないが、せめて残りの人生を加奈恵と共に歩みたいと心からそう思った。
「病気が見つかった。あと十年生きれるか、どうかなんだ。」
僕の言葉に加奈恵は一瞬唖然とした。そして暫くするとぷっと吹き出し、声を出して笑った。
「何かの罰ゲーム?」
「いや、本当なんだ。だから、残りの人生お前と一緒に過ごしたい。お前が好きだ、付き合ってくれ。」
その言葉に加奈恵は少し動揺した様子だった。でも、段々眉間にシワがよっていき、僕を蔑む目で見下ろしてきた。
「嘘つくなら、もっと笑える嘘つけば?全然面白くないんだけど。」
「嘘じゃないってば。」
「嘘よ。アンタに限って病気だとか、私に好きだとか、一番有り得ないことだし。」
加奈恵は結局僕の言葉を最後まで聞き入れず、怒ったまま帰っていった。
今更好きだなんて言われても、確かにおかしい話だったのかもしれない。
泊まりで遊んだりもした、小さい時は一緒にお風呂に入ることもあった。
それだけ一緒の時間を過ごしてきたのが加奈恵なのだ。加奈恵にとっては、僕なんて兄弟のようなものなんだろう。
「まあ、いいや。」
僕は加奈恵を追いかけはしなかった。その代わり、振られた気分転換に少し寄り道をすることにした。
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