act 1  瑠璃色のひとみ

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act 1  瑠璃色のひとみ

 「そうですか。火事でご両親を…」  豊かな髭を指の先で確認しながら、紳士は言った。大きくかぶりを振ると、ため息をつく。「何か私に力になれることがあれば…」そう彼が言いかけたところで、ソフィーはすっと手を挙げて遮った。  「いいえ。私、もう、十分すぎるほど、皆様に助けていただいているんです」  そう、静かに微笑んだ。  一つしかない窓から斜めに入る午後の日差しが、彼女を白く照らした。  装飾品もなにもない小さな部屋だった。  大きな窓と、無垢材の大きな四角いテーブルに木の椅子が2つ。  そして、部屋の角に寄せるように、簡素なベッドが真っ白なシーツに包まれていた。 「私を屋敷から助け出してくれたのは、弟の乳母のカルガでした。  私だけしか助けられなかった、申し訳ないと彼女は泣いていて…  そして、私がお給金をもう払えない事を分かっていても、私をお嬢様と呼んで、世話をやいてくれて、そして何もしなくてよいというので、困ってしまって…。  それで、見かねたこちらの神父様が、教会の下働きの仕事をくださったのです。  でも、私、恥ずかしながら、この歳まで、ろくになにもしないで育ってしまったので、  畑仕事も、日々の積荷運びすら、人並みにできないのです。  私を助けてくださった方々は、けっして生活に余裕があるわけではありません。  むしろ、皆さんを余裕のない生活にしてしまった責任は私にあります。  それなのに、恨み言一つ言わず助けて頂いた上に、今なお迷惑をかけるばかりで、ほんとうに申し訳なく思っております。  ですから、こんな私がお役にたてるのであれば、私に迷いはありません。  どうか、どうか、よろしくお願いいたします。」  ソフィーの青い瞳が、強い光を帯びて輝いた。  それを見て、しかし、紳士はまたため息をついた。彼は、シルクハットに伸ばしていた手に力をいれると、テーブルの上でこぶしを握った。 「わかりました。  …それでは、先の貴女のお勤めを果たすべく、最初の指示をお伝えしましょう。  貴女は、ヴェステル公爵の息子、テーオドル侯爵と結婚していただきます」    
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