あの時のぼくたちも、青かった

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 あの夜のことが自然と話題に上がって、ぼくは少し安堵した。  クラスの卒業旅行。  こっそり抜け出したあの夜のことは、過去の思い出の一つとして昇華しているから。腫れ物に触るような扱いはしなくていいんだよ、と言ってくれているように感じた。 「もう十年近く前だよ、高校時代って。今思うとあっという間だったね」  優は言った。 「でも、一瞬だったけど、私の中に何かを焼き付けてくれた三年間だった。……特に、あっくんと過ごした最後の一年は」  胸がざわつく。こういう時になんて答えればいいんだろう。 「私がアメリカ行くって決心できたの、あっくんのおかげなんだよ」  なに言ってんだ、というのが率直な感想だった。  優は自分からアメリカ留学のことを告げてきた。ぼくにとっては寝耳に水で、めっちゃ遠距離じゃんとか、留学してまで何勉強したいんだろう日本じゃだめなのかとか、年に何回会えるのかいやそれ以前に自然消滅とかしちゃわないかとか、そんなことが混乱した頭を駆け巡った覚えがある。 「あっくん、ちょっと混乱してた風だったけど、その時なんて言ったか覚えてる?」 「いや、覚えてない」 「『彼氏としては正直行って欲しくない。でも、ぼくとしては優が進みたい道を応援したい』ってあっくんが言ったんじゃん。ほんとに覚えてないの?」  やっぱり覚えていないし、我ながら意味不明だし、全身がかゆくなるようなかっこつけたセリフだ。昔の自分の口を塞ぎたい。 「正直言うとね、留学ちょっとだけ迷ってた。いや、ほとんど決めてたし、なに言われたって留学はやめなかったと思う。ただ、最後の一押しが欲しかった」  優は昔を懐かしむ遠い目をしていた。 「私にとって、あっくんの言葉が最後の一押しになったの。彼氏の言葉じゃなくて、あっくんの言葉が。あっくんが応援してくれるんなら大丈夫だって思えたんだよ」  そんなこと、今まで一度も聞いたことない。  ……だったら。応援したいというぼくを信じてくれたのに、最後の最後、旅立つ直前で優を裏切ったぼく。もう一緒にはいられないと別れを告げたぼくは――。
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