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鈴木を黙って見つめる翼の瞳が何か言いたげに揺れている。
それでも鈴木は「それに」と言葉を繋いで、話しを止めることはしなかった。
「あいつは翼君の全てを欲しがるよ?
この意味、分かるよね?」
「あ……」
考えていない訳ではなかった。
だが流石にこれは受け入れ難く、透なら自分が嫌だと言えばそういう行為に及ばないのではないか、というどこか狡い気持ちがあったのも事実だ。
「その気持ちに応えてあげられる?
体良く、心が繋がっていれば満足です、なんて安い考え、金井には残酷なもの以外の何物でもないからね」
考えを見透かしたように言い放たれた言葉に、翼は俯くしかなかった。
「ね、もう一度良く考えて。
翼君がじっくり考えて出した答えなら、金井はどちらの返事を貰っても、しっかり受け止める筈だからさ」
「はい」
小さな声だったが、しっかりと返事をした翼に鈴木は微笑んだ。
「最後にこれだけ言わせて。
三人で飲んだ日があったでしょ? 金井の部屋で」
「はい」
「その時に翼君がお前を選ばなかったらどうするんだ?って金井に聞いたんだよ。
そうしたらね、
『翼にはいつだって笑っていて欲しい。
幸せな恋愛をしてもらいたい』
って翼君の寝顔見ながら微笑んでいたよ。
あいつは本当に翼君を大切に思っているんだね」
翼の胸をきゅっと鈍い痛みが走った。
それは喜びと切なさを同時に味わった、初めての痛みだった。
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