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「嬉しい、ですか」
「ええ。その本を選んで、懐かしいと想っていただけたことが……とっても、嬉しいです」
彼女が浮かべる満面の笑みに、私のなかの疑問も息を潜めた。
この本を、彼女もとても好きなのだろう。
そう想うだけで、私も嬉しくなったからだった。
「じゃあ、この本を……私の子も、楽しんでくれるといいな」
「ええ。その続きは、もう、ここでは買えませんけれど……」
申し訳なさそうに、そう言う彼女。
「でも、続きが欲しいと言うなら、読ませますよ」
励ますように、自分に言い聞かせるように、私はそう口にする。
だって、本はまだ、ここにあるから。
この場所が、たとえなくなっても……いつか、また、巡りあえると信じたいから。
「それが、ここでなくても。……だって、読めないなんて、悲しいじゃないですか」
――彼女とまた、出会えたように。
本も人も、惹かれあうと信じたい。
「……そうですね。ぜひ、そうしていただけると、嬉しいです」
――そうして購入した、最後の本。
それを夫に見せ、複雑な笑みを浮かべた理由を聞いたのは、少し後のこと。
夫と、その本との出会いが、どこだったのか。
この時の私は、想像することもできなかった。
――唯一、懐かしそうに表紙を見つめる、彼女だけはわかっていたのだろうけれど。
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