§1

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 怪我してんのに朝練にまで顔出してどうすんねん、と言うと、シンは笑って、ビブスやドリンクの準備くらいは手伝えるやろ、と答えた。チームの絶対的エースで他校にもその名を知られる快足ウイングが、今更マネージャーの真似事か、とタクミは呆れたが、なんのてらいもなくそういうことを言ってしまうのがいかにもシンらしいと思って、それ以上反対はしなかった。 「タクちゃん、朝早うからゴメンなー、うちの子が面倒かけて」  まだ暗い中を家まで自転車で迎えに行くと、シンの母親が一緒に玄関の外まで出てきて丁寧に頭を下げた。 「や、どうせ通り道やし。それに、他の部員もシンがおると気合入る言うてるから」  そもそもシンの怪我は俺のせいなんやし、と、胸の内で付け加えた。 「さっすがキャプテン、ええこと言う」  松葉杖を突いて戸口を出てきたシンが、しれっとした口調で言う。 「それ、寄越し」  タクミはシンの手から鞄を受け取り、自分の肩にかけた。二人分の荷物を持って行けるように、自分のウェアやスパイクや教科書はまとめてリュックに詰め込んで背負っている。 「おっしゃ、行こか。急がんと遅れるわ」  身軽になったシンが松葉杖のままタクミを追い越して表へ出ようとするところを、門扉を押さえていた母親に頭を豪快にはたかれた。 「あんた『行こか』やないやろ! タクちゃんにお礼は!」 「はあ?」 「あんたが朝練出たいなんてわがまま言うから、タクちゃんいつもより早くうちに寄ってあんたの荷物まで持ってくれはるんやで!」 「いててててっ、何すんねんな!」  シンの丸っこい耳を母親が思いきり引っ張る。タクミは慌てて二人の間に割って入った。 「あの、おばちゃん、元々は俺が言い出したことやから」     
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