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【第三話】オレと、オレ
「アポロン様、どうなさいまして?」
「君は……」
「『歴史』のクレイオーですわ」
ウーラニアーに呼ばれてやってきたのは9姉妹の次女、あの栗生美姫に似たクレイオーだった。
妹からオレの異変を聞き、様子を見に来たようだった。
占いのカードから現れたミニチュアのオレはいつの間にか消えてしまっていた。
しかし、何があったのかをクレイオーはすぐに悟ったらしい。
黙ってそれを纏めると、「片づけなさい」と言ってウーラニアーに渡した。
ウーラニアーはカードを持ってどこかに走って行ってしまった。
「ウーラニアーのカード占いを見たのですわね?」
「うん、そうなんだけど」
「あの子は幼くて自分が何を占ったものをまだよく分かっていないのです。よかったら何をご覧になったのか、姉の私にお話しくださいませ」
オレはどもったり噛んだりしながら、何とか自分の見たものについてクレイオーに話した。
自分は神話の世界の人間などではなく、芸大に三浪中の情けない日本人の男であること。
試験に落ちた憂さを晴らすためにしこたま飲んで酔いつぶれ、挙句の果てに急性アルコール中毒で死んだらしいということ。
病院のベッドの上で冷たくなったオレを見て両親が泣いていたこと。
最後の方はもう、オレ自身も泣きそうになっていた。
「オレはアポロンとか、神とかそういう以前にギリシャ人ですらないんだ。だから、もう……わけわかんないよ」
「では、あなたのお名前は?」
「馬室哲学、年は23。だからオレは」
「マムロテツガク……ですのね」
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