第42回 盗人

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第42回 盗人

『色懺悔 鼠小僧盗み草紙』(多岐川恭) ▽あらすじ  鼠小僧こと源次郎は、「おれは危ねえ綱渡りで、この世を面白く渡ろうと決めているだけのことさ。綱が切れりゃそれまでだ」と思い定めている。世間様は、盗んだ金を貧しい者にばらまく義賊ともてはやしてくれるが、彼にはそんなつもりは毛ほどもない。  懐にした金は、しびれるような快感に酔いしれるための博奕につぎ込み、ねんごろになった女たちに惜しげもなくくれてやった…。  岡っ引の又五郎は、日本橋室町の浮世小路への家路をたどっていて、松平和泉守の上屋敷の塀から飛び降りる男を目撃した。やけに身が軽い、もしや世間を騒がせている鼠小僧では―捕らえてみると、丸顔で色が白く、目鼻立ちはおとなしく、ちんまりしている。とうてい、大それたことのできそうにない面相だ。  問いつめるまでもなく、男は、佐内町で魚屋を営む源次郎と名乗った。あくる日、鯛を持って又五郎の家にやって来た源次郎は、捕物の手伝いをさせてくれと申し出る。  不審をおぼえながら、源次郎の家を訪れた又五郎は、亭主が留守なのをいいことに、彼の女房・お勝と浮気をする。深川のやぐら下で芸者をしていた女だ。     
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