見上げた先には恋がある

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***  彼と喫煙室で顔を合わせてから一週間――。  客先のシステム部から開発遅れのテコ入れにきた水無月は、滞在開始から精力的に動き始めた。積み上げられていた懸案事項を次々と解決し、自社の担当部門とこちらの開発部隊との間を取り持ち、来月からのテストに不要な部分は思いきって開始を後ろに廻すなど、彼の素晴らしい采配によって遅れていたスケジュールは本来の予定へと近づいていった。  そんな忙しい中で俺はさらに彼のことを知る機会に恵まれた。  水無月馨は俺と二つ違いの三十才。見た目はとても若く見えたからてっきり年下だと思っていた。独身で現在恋人無し。今の会社には五年前に中途入社したそうだ。  仕事は客先のシステム部内でも一目置かれる程で、近々マネージャーに昇進という話もあるらしい。上司だけでなく、彼が携わった客先各部署の案件は高評価をもらっていて、お偉いさん達の覚えも良く、あのルックスも相まって女性中心に人気がある、という事を水無月が来てから彼のファンになったといううちの女子社員達に聞いた。  だが、この短い期間で俺はそんなファンの子達も知らない、水無月馨の本来の生態を熟知する事となった。それは俺がこの一年間で勝手に積み上げてきた彼のイメージをガラガラと突き崩すものだった。
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