見上げた先には恋がある

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「寒いー、寒い寒い寒い寒いっ!」  水無月馨は異様な寒がりだ。今も二人で深夜のオフィスに残って修正の終わったプログラムの実行確認をしているが、さっきから彼は寒い寒いと俺の横でうるさい。 「ここのビルは夜九時になると全館空調落とされちゃうんだね」  ガタガタ震えながら言う水無月とは対照的に、俺は上着を脱いでワイシャツの袖を捲り、ネクタイも緩めてキーボードを叩いていた。 「部屋の中でコートまで着込んでいるのに、まだ寒いんすか? そんなに寒いのなら、そこのエアコンつけてもいいですよ」 「こんなに広い部屋でここの一台だけつけても底冷えは変わらないよ」 「もうちょっとで確認が終わりますから。……って、なにするんですか」  水無月は俺の座る椅子の背後に近づくと、いきなり背凭れと俺の背中の間に両手を突っ込んできた。シャツと中に着こんだ肌着越しでも、彼の手の甲のひやりとした感覚が背中に伝わってくる。 「はぁ、あったかい。木崎君って筋肉質だから人より体温高いのかな?」  二つしか違わないのに俺はいつの間にか「木崎君」呼ばわりだ。 「水無月さんの手が異様に冷たいんです。ちゃんと肉、食わないからですよ」
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