今日はあなたに

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ドアを開けると、辺りは夕焼けに赤く染まっていた。 建物や人々1つ1つが言葉では言い表せないような美しい色に染まり、まるで自らも絵画の中に入り込んでしまったかのような感覚に陥った。 私は外に出た目的も忘れ、ぼんやりとその光景に見入っていた。 引っ越してきたばかりのこの街は、まだ慣れていないせいか、時折フィルター越しに世界を見ているかのように感じられた。 木彫りの家々、母親と手をつないで歩く子ども、道端に咲いた草花。 どれもありきたりで、以前住んでいたところでもよく見かけたものであるのに、どうしてかそれらが1つにまとまって、「この街」ということになると、私は自分がここにいるのが間違いであるように感じてならないのだ。 私は本当はここにはおらず、画面の向こうでこの光景を眺めている傍観者であるような気がしてならないのだ。
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