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はじまり
始まりは偶然でした。
私の家は養鶏を生業としており、年間一万羽ほどの鶏を屠殺して肉屋に卸していました。
週に一度か二度、まるまると太った鶏の首を折り、血抜きをし、羽をむしり、各部位に解体します。私の仕事は羽むしりまで。解体作業には熟練が必要なため、父がすべて一人で行っていました。
その日は羽むしり用の湯がすぐに冷えてしまうほど寒い日でした。私は出荷予定の二十羽の鶏の首をポキリポキリと折って、すぐに首筋から胸にかけて細身のナイフを刺し込み、流れ出す血をタライに溜めていきました。血抜きの終わった鶏を熱い湯に付け、羽をむしりとりました。湯はすぐに冷えてしまったため、途中からは力ずくで羽を引きちぎるしかありませんでした。
二十羽の羽をむしり終わった時には、私の手は感覚がなくなってしまうくらい凍えていました。
タライに満々と溜まった鶏の血を処分しようと手をかけました。タライはほんのりと暖かく、私はしばらく迷いましたが、そっと指を血に浸してみました。
ぶよぶよした膜をやぶると、どろりとした感触が暖かさとともに私の指を包みました。私はたまらず両手を血に浸しました。手首までやわらかな暖かさに包まれ、その暖かさは指先から体のすみずみまで伝わっていくようでした。
結局、仕事のはかどり具合を見に来た父に叱られるまで、私はずっと血の中に手を浸していました。
手についた鶏の血を布で拭いながら、私は奇妙なことに気づきました。
鶏の世話と日々の労働で荒れ果てていた私の手が、まるで赤ん坊の肌のようにすべすべになっていました。私は両手に顔を押し付けました。すべすべと頬を撫でる感触にうっとりと目をつぶりました。
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