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「おぉ、シュマ」
ばぁちゃんの隣を歩いていたのは、シュマの父親で、この村の村長だ。その後ろからやって来るのが勇者さまたちらしい。燃え上がるようにキラキラしい、黄金色の髪が見える。その後ろには、大きな帽子とマント、杖を持った、いかにも魔法使いなやつと、長いローブをまとった聖職者のようなやつもいる。
大きな剣を背中に背負った勇者は、精悍な顔立ちのすごい美形だ。
「カッコいい……」
え、今のはアイラちゃんの声?
横を見ると、手を胸の前で組んで、うっとりとした表情を浮かべたアイラちゃんがいた。
その瞬間から、勇者は俺の敵になったね。許さん。
俺の内心が顔に出てたのか、勇者と目が合った。
一瞬、火花が散ったのかと思った。
向こうもそうだったのかもしれない。俺の顔をまじまじと見る勇者の表情は、大きく目を見開いたものだったからだ。だが、それは本当に一瞬のこと。我に返ったらしい、勇者は真っ直ぐに俺の方へとやって来た。
釣られるように立ち上がる俺は、正面から勇者と向き合う。見上げる形になったのは、俺の方が背が低いからだ。ちくしょ。
村の中でも、俺自身そんなに背の高い方じゃないけど、勇者は頭ひとつ分以上、飛び抜けて高い。俺の目線は、勇者の胸の辺り。がっしりと、逞しい胸元は、青い縁取りがされた鋼色の鎧に覆われていて、幅広の肩口には、ゆったりとしたえんじ色のマント。全身からイ・ケ・メ・ンって、オーラが出てる。
毎日農作業に明け暮れてる俺も、それなりに鍛えてはいるけど、この勇者ほどの体格にはなれないだろう。まさに戦う男って感じだ。アイラちゃんじゃないけど、確かにカッコいいのは認めよう。
だが、負けん!
俺にも男のプライドがあるからな。アイラちゃんは渡さん。
睨みつける俺の視線を真っ向から受け止めた勇者は、やがて眼差しを和らげた。
びくっ!
なんだ今の背筋を走り抜ける悪寒は。
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