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持ってたおにぎりが、手の中で潰れる。
「ゆっ、ゆう……?」
え~っと、ちょっと思考停止しちゃったけど、今なんとおっしゃいましたかね、アイラさん。
アイラちゃんは俺の言葉に、あっけらかんと笑った。まるで隣の家の悪ガキがしでかしたイタズラを報告するみたいに、悪意などカケラもない顔だ。
「勇者ご一行さまだって。なんでもこの世界に魔王が降臨したから、倒すために旅をしてるとかって」
「ほぅ、魔王とな」
「ほほぅ」
「なんだよ、魔王っていや、リトちゃんと同じ名前だな」
ワッハッハと、そばで盛り上がる村人たち。
いや、それ俺の名前じゃないし。近所の犬と同じ名前だとかって感覚で言わないで欲しいんだけど。
いかん、昔からそうじゃないかと思ってたけど、どうもこの人たち、呑気さが極楽トンボ並みなんじゃないだろうか。いくら田舎とはいえ、魔王をあっさり受け入れるとか、おかしいとは思ってたけどさ!
いや、確かにさっきそんな噂を聞いたなとか思い出してたけどね。んなタイムリーにやって来なくてもいいのに。
「リト、あれじゃないのか?」
シュマが指差す方角に、こちらへ向かって来る一団がいた。ちょっとぉ、展開早過ぎない?
隠れようにも、先頭に立って手を振ってるの、俺のばぁちゃんだし。ばぁちゃん、それ観光客じゃないから。俺というか、魔王倒すためにやって来た勇者さまご一行だから。
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