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「気になるな。この城のやつらは、誰も彼も秘密をかかえてるらしい」
「そうだな。今の騎士長の口調は歯切れが悪かった」と、ジェイムズも言う。
「おまえも、そう感じたなら、決まりだな。ちょっと裏庭に行ってみよう」
ワレスはジェイムズを誘って庭へ出ていった。
まだ伯爵の部屋を調べなおしてない。本来なら、そっちを優先すべきだが、どうにも気になったのだ。
だが、行ってみると、どうってことはなかった。
広大な敷地のなかでも、裏庭はあまり人の来る場所ではないのだろう。庭師の手もほとんど入らず、庭木に蔓薔薇がからんで荒れほうだいだ。夏だから野生の薔薇が花盛りで、それはそれで風情はある。が、ただそれだけのことだ。
昔の牢屋をながめた。造りは頑丈だ。鉄格子の嵌めこまれた窓。入口の鉄扉には錠がおろされている。建物のなかには、むろん人影はない。なかに入ることはできなかったが、ぐるりを一周した感じでは無人だ。
「見ろよ。ジェイムズ。拷問道具まである。いかにも中世の暗い歴史の遺物だな」
鉄格子のすきまからのぞき見て、ワレスは指さす。
ジェイムズが苦笑した。
「だから、騎士長が言いしぶったんじゃないかな。きっと幽霊がでるとか、古い城にありがちな言い伝えがあるんだ」
「そんなところかな。でも、獣道ができてる。動物の通り道ではあるんだ」
前庭にいた野ウサギたちのメインストリートなのかもしれない。きっと近くに侵入経路があるのだ。
「城に帰って、伯爵の部屋を調べよう」
ワレスたちは城内へひきかえした。
昨日はジョスリーヌを迎えるために、特別、忙しかったのだろう。今日は城のふんいきは平常どおりに戻っているようだ。
一階には見張りの兵士。
窓や階段の手すりをふく小間使いもいる。
ワレスにも見なれた貴族の城の風景。
「一階にはけっこう人目があるな。夜でもこんな感じかな」
昨夜の奥方の夜中の散歩を思いだし、ワレスは言ってみた。
ジェイムズが答える。
「見まわりの兵士くらいはいるだろうな。裏門もふくめ、城門は常時、見張りがついてるだろう。これだけの城なんだから」
そういえば、さきほど、オーガストの見せてくれた書類にも書いてあった。夜間の城内の見まわりは、定時で二時と。
奥方の外出は、おそらく、その時間にひっかからないよう考慮されているのだ。今夜、あとをつけてみようと、ワレスは考えた。
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