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「今のところ可能性は高いです。ただ今の段階では九割方そうだろうとしか言えない。
今、生理検査の結果を待っています。約一週間かかります。
他にも色々検査も行います。結果が出たら、薬や治療方針を相談することになり」
「手術はしない。痛みだけ取ってくれ。家に帰る」
こりゃ手強そうだ。
「来週には結果が出ます。その間は極力痛みと浮腫をとっていきますが、治療は出来ません。それまでは」
「今すぐだ!モルヒネでもなんでも」
「落ち着いてください!」
咄嗟に肩を抑える。
動けるはずもないほどの痛みがある筈なのにこの人は必死で動こうと藻掻く。
なんて説得すればいいんだ。
抑えた肩から寝巻きがずれて背中がちらっと見えた。
『もんもんが………』
ああ、言ってたな。
え?
「龍……」
「あ?」
「貴方は、あの時の」
朝の夢。
この龍は意識が途切れる前に僕が見たもの。
首をちぎるように大きく口を開けた、龍。鱗は赤黒く目は真っ赤。
「覚えてませんか?
僕は海で貴方に助けられた。30年くらい前です」
彼の目が僕を捉える。
僕も彼の目をしっかりと見返す。
「あの時の、坊か」
彼の目が糸のように細くなった。
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