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「はい。ジャパニーズソウルですよ。僕らは演歌をそう呼んでいます。ジミーは……このアーティストは、来月、うちからデビューするんです」
帽子のつばを右手でちょっとだけ下げて、神門は後ろ髪をもう一方の手で梳いた。タータンチェックの鳥打帽とアロハシャツ。江頭には、ギョーカイ村で大手を振るい始めたこの住人が、飛ぶ鳥どころか飛行機まで落とすスナイパーに見える。眼光の鋭さは、音楽関係者というよりも株の仕手筋みたいだ。
「日本語で?」
「ええ。サビの部分だけ英語です。ジャパニーズソウル……新しいでしょ」
右の頬でひっそり笑い、ギョーカイの新参者は「うん、新しい」と自分の言葉に頷いた。
窓ガラス越しのプラットホームを一瞥してから、江頭は神門の名刺に視線を落とした。
前回は本部長だった肩書きが専務取締役になり、会社名の横にCDレーベルのロゴが刷られている。
ふたりの密会は今日が2度目だが、「名刺が変わりまして」と差し出してきた神門に、江頭は30年も変わらぬ名刺を、挨拶の成り行きでもう一度渡した。
「エトさん……大城戸栄(おおきどさかえ)さんは、日本の黒船になりますよ!」
革カバーのシステム手帳を取り出した神門が、急に目力を込めて言い、万年筆のキャップを開ける。
「クロフネ?」
「アメリカデビューですよ。ジャパニーズソウル……ニッポンの演歌は、パフォーマンスさえ伴えば海を越えられる。そう思いませんか?」
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