34人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「キスしていいか?」
返事を待てずに、綾の唇に自分のを重ねていた。
「んふ……」
潤んだ瞳で俺を見つめる綾に我慢ができなくなり、もう1回、さっきより長めのキスをした。
「綾」
「なに?」
「悔しいから、あいつらの期待にこたえてやろうぜ」
「なにそれ」
「俺も出来る限り手伝うから」
「……」
「アメリカに、来て?」
「……うん」
「がんばろうぜ?」
「うん」
「来たら今度は、俺があっちの地名の読み方とか教えてやるから」
「ふふふ」
笑い出した綾の頬にもう一度キスをした。
そしてあいつらの歩いていった方向にむかって、小さくつぶやいた。
「サンキューな……」
「ホントだね」
俺の声が聞こえたのか、綾が俺の手をぎゅっと握り締めてきた。
ポンポンポン……
肩を寄せ合う俺たちの目の前を、さっき汽笛を鳴らした船の一隻が、夜の黒い水面を滑るように去っていった。
<おしまい>
最初のコメントを投稿しよう!