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紫陽花と水たまりと数え唄
《あお待ち鳥》
一枚生えて蕗の薹 ニ枚並べば畦の担保簿
三枚集まれば鳴る鈴蘭 四枚重なり藤の花
五枚縁ってゆめゆめ忘るな都忘れ 六枚寄せたら危ぶめ菖蒲
七枚揺らして夢見よ芍薬 八枚濡らして待てよ紫陽花
九枚光らせ浮かべよ合歓木 十枚揃へば匂へよ山梔子
四十九枚の羽たちよ 風打ち鳴らし合わせて逢わせよ彼の地のものと────
***
暮れ始めた空の下、高い、どこか眠くなる蛙の合唱が響いている。
雨の日特有の、もったりした水と泥の臭いが鼻腔を満たしていた。
シュウは、下がってきた藁蓑を、よっこらせと背負い直した。
雨水をたっぷり吸い込んだ藁蓑は重くて仕方がない。父の蓑を背負ってきたせいもある。大柄な父の蓑は、十五になったばかりのシュウには大き過ぎた。なにせ線の細い母に似たのか、男のくせに女に間違われるほどに細いのだ。
蓑が受け止めきれなかった雨粒が、小麦色の前髪を伝って顔を濡らした。
「うっわ、目ぇ入った……っ!」
小さくうめいて手で雨水を拭う。淡い色の瞳が少し潤んだ。
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