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「んっ……夢か」
ピピピと言う目覚ましの音に促され、俺は意識を覚醒させる。
普段なら多少頭がぼやけているが、今日はそれもない。
とても目覚めがいい。
それと同時に久しく感じた事の無い充足感に包まれている自分が居る事に気づく。
酷く懐かしい夢を見たと思う。
そうあれは高校時代の夢。
今年で俺が二十三歳になる為、もう五年も前の――十八の頃の夢だ。
五年も前の夢を見たのだ。
通りで懐かしくも思うはずである。
今までこの類の夢は見なかった。
否、見る事が無いよう思い出す事が無いように、本能的に忘れていたのかもしれない。
自分の中で封印した記憶は、一度思い出すと止め処なく溢れてくる。
教室での他愛のない会話。
運動場での授業態度。
放課後一緒に帰った際に見た風景。
そこで食べた食べ物。
目を瞑るだけで昨日の事のように思い出される。
それもそのはずだ。
あの頃の俺の世界はあの友人を中心に回っていたのだから。
むしろ五年も思い出す事がなかったことが嘘のようだ。
恐らくこんな夢を見てしまった理由は、俺の今日からの勤務先に関係していると推測する。
晴れて教員採用試験に受かった俺は、今日から新任教師として母校に帰る。
帰るといっても高校三年の時に新しく生まれ変わった俺の母校は、男子校だったのを共学に。
そして付属の大学を新設した。
その付属大学の一期生となった俺は、そのままそこで教員免許を取り付属の高校に戻ってきたのだった。
高校生活を過ごした学び舎に。
思い出の詰まったあの場所に。
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