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少年たちの針路 1
僕たちが暮らしている船は古い。住居区も栽培区も商業区もどこかしらガタが来ているし、僕が働いている整備ハンガーは輪をかけてボロボロだ。壁に空いた穴はトタンを貼り付けてごまかしただけ。雨漏りを直す余裕はないので、雫の滴る場所に歪んだ金属製の桶を置いている。
「機体整備、終了しました」
僕が操縦士のYに声をかけると、Yは快活に返事をした。
「ありがとう! それじゃあ予定通り、十六時に出撃する」
「了解」
出撃、と言っても、誰かと戦うわけではない――おそらくは。
穏やかな青い海。まばゆい陽光にきらめく水面。ささやかな波音と白い波。それがこの星の、多分すべてだ。
たくさんの人がその上で暮らせるくらいに大量の土や岩が固まっている場所を『陸』と言うらしいけれど、それは伝説上の存在だ。だから誰もが巨大船の上で暮らしている。この星に生きる僕たちにとっての『陸』は、この船そのものだ。
「でもよ、このあたりはまだ調査してないだろ。陸、あるかもしれないよな」
Yはゴーグルのレンズを拭きながら楽しげに言う。「そうだね」と僕は返す。
「伝説の存在、この目で見てみたいな」
昔から、Yには少し夢見がちなところがある。
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