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 お話は、"あべこべの国"によその国の泥棒がやって来るところから始まる。 〈泥棒はこれまでも、いろんな国で盗みを働いてきた。〉  おねえちゃんが『泥棒』と言った途端に、本の中からひょっこりと小人が出てきた。  その小人は上から下までまっ黒で、まるで影が立ってるみたい。  目と口の部分に穴の空いた覆面を被っていたので、小人の顔は見えなかった。 〈「さーて、この国ではなにを盗んでやろうかな?」〉  雲の上を歩きながら、ひょうきんな動きであたりをキョロキョロ。  そして、ひらめいたように手を叩く。 〈「そうだ! 本にしよう。あべこべの国の本だから、不思議な本がたくさんあるにちがいない」〉  本の盗みを企てた泥棒は、人々が寝静まった昼間、本屋さんに向かうべく、あべこべの国の冒険を始めた。  おねえちゃんの凄いところは、お話ししている場面に合わせて、声や話し方を変えることだ。  キンキンとした高い声、迫力満点の低い声、ヒソヒソ小声。  ゆーっくりした速さで読んだり、弾むようにリズムを付けたり。  物音だって、『ゴトン』『バリーン』と音を真似て、わざと大声で叫ぶんだ。  この声にびっくりする子がいて、その度にみんな大はしゃぎ。  小人もくるくると動き回るから、ぼくもみんなも、おねえちゃんのお話と小人の動きに夢中だ。  手に汗握り、必死に身を乗り出した。 (泥棒が誰にも見つかりませんように) (無事に本屋さんに入れるかな?) (ワナに掛かった! 早く逃げろ!) (ガンバレ!)  泥棒がピンチになれば、ぼくは心の中でがむしゃらに応援する。  泥棒なんて悪い人を応援するのはよくないけど、お話を聞く内に自分まで泥棒と一緒に本屋さんに忍び込んでいる気分になった。  それはきっと、みんなも同じ思いに違いない。  だって、泥棒が本屋さんへの侵入を果たした瞬間、あたりから「ワアッ」と歓声が上がったから。
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