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 ホームルームが終わり、担任が出ていったあと、明日海先生が引き戸を開けた。いつも通り、のんきな表情である。明日海先生は私に一度目を留める。そこに陽介と同じ心配の色があったことに気づいたのは、きっと私だけだろう。私が先生から目線をずらすと、先生も開いた教科書に目線をずらした。  アスモデウスに出会ってから、私なりに色々調べてみた。悪魔のこと、そしてアスモデウスのことも。  悪魔は、人間の魂を欲しがっている、らしい。ある者は食料とし、ある者は売買の手段に、ある者は上司に献上する。人間の魂は、彼らにはそれなりの価値があるらしい……。 しかし、人間もただで悪魔に魂を奪われるほど馬鹿な存在じゃない。人間と悪魔の間には、魂をもとにした『契約』がある。人間は悪魔に望みをかなえてもらい、悪魔はその人間の死後、魂をもらう。  まさに、win-winの関係だ。  アスモデウスも、きっとそういう悪魔だったはずだ。しかし彼の人生が狂ったのは『サラ』の存在だった。サラに出会い、固執し……大天使・ラファエルに追われる羽目になった。  サラの魂は、きっとどんな人間のものよりも甘美で価値があるものに違いない。……それならば、アスモデウスはこのサラの魂が欲しくて欲しくて仕方がないはずだ。  なのに、明日海先生は決して、私が持ちかけた契約に対して首を縦に振ることはなかった。     
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