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「お前ぇまた来てるのかよ」  店の入り口から大きな段ボールを抱えた男の人が入ってこようとしていた。両手が塞がっているからだろう足で扉を抑えている。すぐに近寄って行って扉を開ける。 「ああ。すまんな」  中に入ってきたのは千葉書店の店主つまりは由紀の親父さんだった。 「また、由紀の店番の邪魔しやがって」 「店番ってお客僕しかいないよ。おじさん」 「うるせぇ。これから来るんだ。これから」  段ボールをカウンターの後ろに運び入れながら言った。 「お前も由紀にちょっかい出している日があったら本の1冊でも読め」 「読んでるよ。今日は前に読んでいた奴を読み終わったから新しいのを買いに来たんだ」  む。と千葉さんの眉間に皺がよる。実はこれは機嫌が良い証拠だ。機嫌が良くなっていることを悟られるのが嫌で無理やり眉間にしわを寄せていることを僕はしっている。 「ふーん。何を読んだ?」 「宮沢賢治の銀河鉄道の夜と森博司のすべてがFになる」 「ふん。読んでいるジャンルが雑多すぎる」  眉間の皺が深くなる。 「本は良い。今読んだ時に感じた事と10年後に同じ本を読んでも感じることが違う。それは俺たちが生きていると言う事に他ならない」  うんうん。と何度もうなずいている。本の事を話しているときの千葉さんはとても楽しそうだ。無理に寄せていた眉間の皺がいつの間にか緩んでいる。 「由紀。そいつに適当に本進めてやれ」  僕の視線に気が付いたのだろうか、突然照れくさそうな表情をしたかと思うと視線を逸らして手を払うような仕草をする。 「だって。何かおすすめはある?」  カウンターに肘をついて由紀に尋ねてみる。カウンターの下に手を伸ばして彼女が一冊の本を取り出す。ほっそりとして綺麗な形をしている彼女の手がどけられるとタイトルが見えた。 「僕は勉強ができない」  タイトルをそのまま読む。 「面白いタイトルだね」 「中身も面白いよ」 「そっか。それは楽しみだ」  本の会計を済ませて店の外へ出る。早歩きで店前から離れて歩きながらさっき買ったばかりの本を袋からだしてぱらぱらとめくる。  そこには1枚のメモ紙が挟まっていた。内容はこうだ。 「今週の日曜日小田原駅前のいつものベンチに10時」  由紀からのメッセージで僕たちのデートの約束だった。
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