ポインセチアの恋

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
夕陽によって赤く染まる教室に伸びる一人分の影。影をたどると一組の男女が教卓を挟んで向かい合っている。何かの相談をしているのか、はたまた恋人たちの逢瀬か。  男の方は先ほど紹介したこの学校の教師―赤石修介、女の方は生徒である少女だった。まだ学校に残っていたらしい。 教卓の上には数学のプリントが広げられ、赤石は黙々とペンを走らせている。そして少女は白いプリントに文字や数字が綴られていく様をじっと見つめていた。しかし、勉強会にせよ、ただ少女が“先生”の仕事を見守っているにせよ、プリントを覗き込む二人の頭の距離は触れ合ってしまいそうなほどに近く、傍から見れば“教師と生徒”という関係であるどころか、むしろ恋人同士のように見えるだろう。 「先生、これってテストに出る問題をまとめてるの?」 ふと少女が口を開く。が、赤石は「うーん…。」と悩むような声を発するだけで肝心の答えは不明。そんな返事に少女は“答えてくれるわけないか”と苦笑し、また口を閉じた。その瞳はどこか寂しげに憂いでいた。  太陽はさらに傾き、影はその背を伸ばしていく。ふとプリントを見ていた少女が顔を上げ、赤石を見つめ始めた。暫くして時計を確認し、小さく「もう行かないと」と呟くと、再び赤石に目を向けた。その顔は先ほどとは全くもって異なっていて。 その瞳に浮かぶ熱と悲し気な、しかしどこかほっとしたような感情の色。 ―ずっとこの人を想っていた。 手を伸ばせば触れられる程近くにいるのに、彼には決して届かないこの手。実ることのないこの想い。ずっと長い間諦めきれなくて、何度胸を痛めたことだろうか。 しかしついにこの恋に終止符を打つ時が来たのだ。 少女の頬を涙が伝う。それを拭うことをせず、少女は涙にぬれた顔で柔らかく笑った。 「“修君”結婚おめでとう。」 赤石の額にそっと少女の唇が降れ、その次の瞬間、少女の姿は教室から消えた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!