卯月

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なんだか眠れなかったので窓を開け 窓枠にもたれて空を見上げた。 僕が去年まで住んでいた横浜の夜景と違ってここは 静かな暗闇に僅かな灯りその上には 町並みよりも明るい一面の星空が広がっていた。 「あ…。」 南の空に流れ星が一筋流れてすぐに消えた。 「…、あんな一瞬で願い事三回なんて唱えられるわけないじゃないか。」 独り言を呟いてベッドに仰向けに倒れこむ。 そもそも星に願うような願い事など僕にはなかった。 まだ冷たい風がさっきまでの行き場のない思いで 火照った身体を冷やす。 再び大きな溜め息をつく頃には僕は微睡みの中にいた。 夜明けの空気の冷たさに目を覚ますと 喉が痛かった。 「最悪な幕開けだな…。」 そう呟きながらちょっとだけ久しぶりの 他の同学年の生徒より少し新しい制服に袖を通す。 「どうせこの一年もなにもなく終わっていくんだろうな…。」 今日から中学3年生。 去年の夏休み明けに父の急な転勤でこっちに 来てからというもの溜め息が絶えない。 よくある転校生のイベントなんてものを 少しだけ期待していたが実際のところは何もなく なんとなくクラスに溶け込み なんとなく進級した、それだけだった。 友達もできたし勉強も部活もそれなりに がんばっている。 ただひたすらに退屈だった。 横浜にいる頃クラスメイト達は 身の丈以上の夢を語り最新情報におどらされ 好きではなかったけど賑やかだった。 自分もなにかしていないと取り残されるような気がして訳もわからず必死だった。 今は、がんばってもがんばらなくても それ相応の現実が転がっている。 僕は急に広い水槽に入れられた 金魚すくいの金魚のようだと思った。 生き方がよくわからない。
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