覗く女

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覗く女

 もう深夜一時を過ぎた。  そろそろ寝ようかと、一階の戸締りを確認していった。   リビングと和室の窓を確認して、最後に玄関を見に行った時、悲鳴が出そうになって咄嗟に両手で抑えた。  玄関扉は磨り硝子。その向こう側に、ボンヤリとこちらを覗き込む女が見えたからだ。  外の玄関照明に照らされ、磨り硝子の向こう側で黒髪に白い顔と黒い瞳が浮かび上がっている。  マネキンのようなその顔に、私の体は冷気を浴びたようにガクガクと震えた。  深夜一時に他人の家を覗く女は、明らかにまともではない。幽霊の類は見た事はないが、この女が幽霊だと言われたら納得できる。  しばらくして、瞬きのない瞳が扉からすうっと離れた。続いて聞こえた、足音。  足があるという事は生身の人間か。それでも薄気味悪い事には変わりはない。  私は玄関の施錠をしっかりと確認して、寝室へと急いだ。  翌朝、けたたましいサイレンの音で目が覚めた。  隣の矢部さんの家の前にパトカーが何台も停まっていて、ウチにも警察が来た。  何があったのかと聞くと、矢部さんの娘さんが何かの事件に巻き込まれたらしい。変わった出来事はなかったですか、と警察に聞かれ、昨夜の事を思い出した。  「寝る前に、変な女が玄関から中を覗き込んでいたんですよ」  警官2人は顔を見合わせて、もっと詳しく教えてください、と言ってきたので詳しく説明すると、警官は何度も何度もその話を聞いてきた。  そのしつこさに少し苛立ち始めた時、玄関の外タイルが汚れている事に気付いた。  黒っぽい液体がこぼれたような汚れは、外の歩道まで続いている。   「……矢部さんのお宅と隣接する住宅の玄関全てに、同じ汚れがあるんです」  私の視線に気付いた警官が、隣の家を仰ぎ見ながら朝日に顔をしかめて続けて言った。 「どうやら犯人は娘さんの頭部を切断したのち、犯行がバレていないか気になったのか、娘さんの頭部を持ったまま周辺の家に探りを入れたようです」  あの時覗いていたと思っていたのは、切断された生首だったのだ。  それ自体にもゾッとしたが、もし、悲鳴をあげていたなら、私はどうなっていたのだろうか……。 ー了ー
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