河原で

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日中の日差しと夜露は身体の次に心を蝕みはじめた。 思い出が、夢が、希望が、意思が次々と剥がれ落ちてく。 ゴミなのか本なのか自分が自分で分からなくなり始めていた。 セーラー服はぼんやりと雲が流れるのを眺めているだけだった。 初老の男性がセーラー服を見降ろしていた。 「私をゴミじゃなくて本として見てくれている」 「私がエロ本だからと言う理由でいじめたりはしない。」 セーラー服はそう直感した。 おじさんの目はとても優しかった。 そして、剥がれ落ちた思い出や希望や意思のかけらたちが、 最後の力を振り絞って手を伸ばした、 本当に最後の力を振り絞ってそれぞれのかけらがそれぞれの手を握り合って、 もう一度一つになった。 セーラー服はセーラー服だった。 かろうじて、セーラー服だった。 セーラー服は思った。 おじさんは私を見ている。 そして思いだしている。 未成年だった頃を、 道に捨てられたエロ本を友達どうしで拾いに行った小さな冒険のことを、 初めてエロ本を見た時の、抑えきれない衝動感とトキメキそして罪悪感を、 セーラー服は思った。 おじさんは私を見ている。 そして思いだしている。 勇気を振り絞って買ったエロ本 母親に見つ からない場所に隠すために知恵を振り絞った時のことを セーラー服は思った。 おじさんは私を見ている。 そして思いだしている。 男同士の友情の証として、 時に、親友のところに、泣く泣く嫁に出したことを セーラー服は思った。 おじさんは私を見ている。 そして思いだしている。 あなたがまだ未成年ころ、本当の愛と女性を知るまでの僅かな間 私があなたの恋人であったことを セーラー服は思った。 きっと、そうに違いないと。 セーラー服は幸せだった。
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