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君は、明日の夢を
1
嗅覚というものがあったなら、人のように狂えていただろうか。
〝僕〟に搭載されている感覚機関は人間の五感に限りなく近いけれど、本来の役割、つまりは戦闘行為に不必要な機能は、できうる限り除外されている。
僕は機械と人を繋ぐために存在するだけのシステムであり、ツールだ。人である必要はない。
『たとえ、僕に嗅覚があったとしても、人のようには狂えないだろう。ぼくにとって、情報は数値でしかなく、感情にはつながらない。だからこそ、搭載されていないんだ。どんなに精巧に作られたとして、人と同じ存在になるべく理由がないんだ』
スピーカーから、合成音声が流れる。
僕に用意されている声は、落ち着いた男声だ。わりと、気に入っている。
主人であるミナイ・ユウヒの母国語に合わせて、コクピット内での会話は、すべて日本語に設定されていた。微妙なイントネーションで様々に意味を変える不思議な語源だ。
パイロットの精神的安定を目的として、僕はミナイとの会話をしていた。ミナイは寡黙だが、僕とだけは良く喋った。
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