貴子の遺書

1/21
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

貴子の遺書

七月の半ばを過ぎた、とある暑い日。 私の親友が、自殺をしたとの知らせを聞いた。 家のすぐ近くの歩道橋から、車が絶え間なく流れる国道に向かって飛び降りたらしい。 時間は夜、周りに人は誰もいなかったそうだ。 高校時代から家族ぐるみで彼女と仲の良かった私は、彼女の突然の訃報に全くの実感が持てなかった。お互い、社会人になってからもそれなりの頻度で会っていたし、彼女自身、私から見て特に変わった様子も見られなかった。 彼女はとても「明るい」人間だった。 まるで周囲を照らす太陽のような溌剌とした雰囲気に、私を含め誰もが憧れた。 私は彼女の死後しばらく経って、彼女の父親から連絡を受け、彼女の実家へと足を運んだ。 「わざわざ、来てくれてありがとう。」 そう力なく笑った彼女の父は、深くやつれていた。 「実は、娘の持ち物の中にこんなものがあってね。」 居間に通され、お茶と共にきれいな1枚の封筒が渡された。 「なっちゃんに、読んでほしい。娘と仲が良かった君なら、何かわかるかと思って。」 それは彼女が最期に書いた遺書らしかった。 聞きたいことは山ほどあったが、私はあえて黙って彼女の父の言われるままに、中身を開いた。 ―     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!