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貴子の遺書
七月の半ばを過ぎた、とある暑い日。
私の親友が、自殺をしたとの知らせを聞いた。
家のすぐ近くの歩道橋から、車が絶え間なく流れる国道に向かって飛び降りたらしい。
時間は夜、周りに人は誰もいなかったそうだ。
高校時代から家族ぐるみで彼女と仲の良かった私は、彼女の突然の訃報に全くの実感が持てなかった。お互い、社会人になってからもそれなりの頻度で会っていたし、彼女自身、私から見て特に変わった様子も見られなかった。
彼女はとても「明るい」人間だった。
まるで周囲を照らす太陽のような溌剌とした雰囲気に、私を含め誰もが憧れた。
私は彼女の死後しばらく経って、彼女の父親から連絡を受け、彼女の実家へと足を運んだ。
「わざわざ、来てくれてありがとう。」
そう力なく笑った彼女の父は、深くやつれていた。
「実は、娘の持ち物の中にこんなものがあってね。」
居間に通され、お茶と共にきれいな1枚の封筒が渡された。
「なっちゃんに、読んでほしい。娘と仲が良かった君なら、何かわかるかと思って。」
それは彼女が最期に書いた遺書らしかった。
聞きたいことは山ほどあったが、私はあえて黙って彼女の父の言われるままに、中身を開いた。
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