5.アラーム

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発車のベルが響き渡る。 ゆっくりと列車が動き出す。 列車は少しずつスピードを上げながら、崖へと向かって走っていく。 ガラスの嵌められていない格子窓から、夜風が吹き込む。 シュウは窓の外を見た。 闇の向こうに、観覧車のイルミネーションが見えた。 観覧車に飾られた、巨大な三日月のオブジェが、銀色に光り輝いている。 それが何かに似ていると、シュウは思った。 少し考えて、気づいた。 鎌だ。 (――そうか。「ぎんいろ三日月」って、死神の持ってる鎌のことだったんだ) カタン、カタン、と列車が揺れる。 窓から吹き込む夜風が顔を撫でる。   観覧車を眺めながら、シュウは言った。 「さっきアナウンスがあったけど……このアトラクションも、〈幻想度〉が50%なんですね。あの観覧車と同じだ。……なんでだろう? 観覧車も、別に幻想的って感じはしなかったけど。このアトラクションも、幻想的だと思いますか? 島雨さん」 窓から見える観覧車の角度が、少しずつ変わっていく。 遊園地のイルミネーションが、どんどん後ろへ遠ざかっていく。 「たぶんだけど……不自然に〈幻想度〉が高いのは、高い所に昇ったとき、山の麓の街が見えるアトラクションなんじゃないかな」 「……街が見える?」 風の音に紛れて返ってきた答えに、シュウは振り向いて問い返した。 「ああ。観覧車も、おそらくジェットコースターも、そうだろう」 シュウは首を傾げた。 言われてみれば、観覧車に乗ったとき、山の麓に広がる街の景色が一望できたけれど……。 「この列車も、もう少し崖に近づけば、窓から麓の街が見えるはずだよ」 「……街が見えると、どうして、〈幻想度〉が高くなるんですか?」 「――そうだね。〈幻想度〉の説明がどういうものだったか、シュウは覚えてる?」 問われて、シュウは、死神姿をしたガイドの言葉を思い返した。 〈幻想度〉の高いアトラクションは、確か――『非現実感に浸って死に至りたい方に!』と説明されていたっけ。
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