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カタン、カタン。
心地良い列車の振動に揺られ、少し肌寒い夜風に吹かれて、シュウたちは着々と、刻一刻と、レールの先にある崖へと向かって運ばれていく。
列車はすでに速度を上げ切ったようで、先ほどから一定の速さで走っている。
そして、“終点” まで止まることもない。
「ねえ、シュウ」
不意に名を呼ばれ、シュウは顔を上げた。
「なんですか?」
「君さ。……学校の成績、悪いだろ。もしくは、傍目にはわかりづらい障害を持ってる」
「――え」
ぶしつけにそんなことを言われて、シュウは声を詰まらせた。
戸惑いつつも、内心ムッとした。
……そりゃあ、成績が悪いというのは当たっているけど。
だからなんだというのだ。見るからに頭の悪い顔をしてる、とでも言いたいのか。失礼な。
シュウは島雨の横顔を睨みつけたが、島雨は、こちらを見ることもせずに続けて言った。
「一斉検査によって、自殺志願者だと診断されるのはね。――つまり、そういう人間なんだよ」
「……はあ」
シュウは、溜め息混じりに顔をしかめた。
勉強ができない人間や、何かしらの障害を持った人間は、そうでない人間に比べて自殺志願者になりやすい。そう言いたいのか。
それはそのとおりかもしれない。
能力の低い者や健常な心身を持たない者は、それだけ社会の中で生きづらく、そのぶん人生を悲観して、自殺願望を抱きやすくもなるだろう。
でも、それがどうした。
なぜ、今このときに、わざわざそんなことを言うのだ、この人は。
「『そういう人間』で、悪かったですね。……けど、島雨さんだって、同じ自殺志願者じゃないですか」
シュウは、半分吐き捨てるように言い返した。
すると、島雨は。
「違うよ」
と。低く、しかしはっきりとした口調で、そう言った。
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