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 やわらかな斜光が、冬枯れの枝の隙間から差し込む。  こんなに寒い日に、外で立食パーティーなんて考えたやつはバカじゃないのか。  神崎隆彰(かんざき たかあき)は子どもの傲慢さで毒づくと、足元に転がっていた小石を蹴った。  案の定、冬空の下、暖かい室内から出ようなんて考える物好きは、隆彰のほかにはいない。  両親に無理やり連れてこられたのは、どこそこの会社の創立百周年だか、何十周年だとかの記念祝賀パーティーだった。一流ホテルの大広間を借り切ってのパーティーは、調度も料理も客をもてなすスタッフも、どれをとっても完璧で、文句のつけようがない。それに加え、招待客にはわざわざ部屋まで用意されている念の入れようだった。  ゲストには財界のトップや、普段テレビなどで見る顔も多く目にした。みなグラスを片手に愛想笑いを浮かべ、歓談に興じている。隆彰と同い年くらいの子どもの姿もあったが、とりたてて話しかけたいとは思わなかった。  隆彰の母は国民の誰もが知っているような有名女優で、二十歳で隆彰の父と結婚したときには、相手はどこの誰だと、世間を大いに賑わせたという。  ーー前に会ったときよりもだいぶ大きくなったね。いまどきの小学生は発育がよくてびっくりするなあ。お父さんに似て、ハンサムだ。隆彰くんは、お母さんみたいに芸能界には興味がないの?  そんな声が煩わしくて、逃げるように広間から抜け出してきたものの・・・・・・。 隆彰は木枯らしに身を縮めながら、ホテル自慢の日本庭園をぶらついた。池の水は薄く氷が張っていて、鯉がほとんど寝てるんじゃないかというくらい、じっと固まっていた。 「それにしても、寒っみーなー、おい」  じっとしていると、身体が凍りつきそうになる。早く窮屈なネクタイをといて、風呂で凍えた身体を暖めてから、ベッドで横になりたかった。  そのときだった。  目の端に、何かちらりと動くものを捉えた。
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