今 顔を上げたら、きっと。

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 止めざるを得なかった。背後から抱きしめられたから。 「……ら岡……先生?」  どうして今ここに?   疑問と、不安が一気に沸き起こってくる。  だけど、理世の身体を抱くその腕にある腕時計は、寺岡の物に間違いなかった。何より、理世の本能が寺岡だと告げていた。  理世の耳元に、少し疲れた様な吐息が触れる。 「お前とこうしてると、安心する」  それは、少し疲れが滲んだ、寂しそうな声だった。寺岡は、理世の髪に顔を埋めて、首筋に口付けを落とす。 「どうして居るの……?」  今日は土曜日だ。居るはずがないのに。 「理世、今夜行くから」  理世の問いには答えないまま耳元で低く囁いて、理世の耳朶を甘噛みして、寺岡の腕はするりと理世を解放した。  解放されても、理世はしばらく動く事が出来なかった。
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