走る電流と攻防戦

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美味しい…美味しい筈なのに、何故かいまいち味を楽しめない。 勿論それは、この藪中路成の所為だと、心の中でいつものように毒づいた。 藪中がこんな風に、昼食時間の度に、私の元に訪れる様になったのは、あの初めて挨拶を交わした翌日にまで遡る―――。 ***** ―――確かあの日は今日と同じ席に座り、カツ丼を食べていたと記憶している。 あと少しで食べ終えようとしていた時だ。 颯爽とした姿で、藪中が食堂に現れたのだ。 その瞬間、周りが一気にザワついた事は言うまでも無い。 藪中グループの御曹司で、しかもアルファの男がこの理研に社会勉強に来ている事は、皆周知の事実だったが、本人を目にしたのは、この日が初めてだった人も多いのだろう。 藪中の姿を見た途端、女子所員や食堂のおばさん達が黄色い歓声を上げ、男達は羨望や劣等感の交えた眼差しを送っていた。 ここにオメガがいたら、きっと一発でアルファのオーラにやられそうなぐらい藪中の存在感は大きかった。 藪中はキョロキョロと誰かを探しているのか、食堂を見渡していた。 そして私を発見した途端、顔を大きく綻ばせながら、長い脚でこちらにやって来たのだ。 「探しましたよ!高城さん!」――と。
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