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『誠。お前、なりたくもないのに医大目指して、苦痛じゃねぇの?』
久しぶりに再会した友人に言われた言葉が、僕の心にチクリと棘を刺した。
毒のある棘だ。
それは黒い靄のように充満し、過去と今、そして未来に対する疑心を生み出す影となる。
親や担任の勧めで、有数の進学校へと入学した。
『お父さんのように立派な医者になりなさい。それが貴方にとって一番幸せな人生なんだから』
幼い頃からいつの間にか敷かれていた真っ直ぐなレール。
決められた一本道だから、迷うことも遠回りになることもない。
整備されたその上を踏み外さぬように走ることが僕の義務だと、そう信じていた。
誰一人、乗客はいない。
どんな景色が広がっていたのかも知らない。
余裕のない僕の列車は、安定という名の終着駅へと向かって、ただ闇雲に真っ直ぐ走ることしか出来なかった。
それは、心踊る列車の旅とは程遠い、高校二年の秋だった。
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