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白猫が横断歩道を渡っている。
道路にいきなり飛び出すこともせず悠然と横断歩道を渡っている。青信号になっているのは偶然なのだろうか。車が来ないことを理解しているような白猫の姿に自然と笑みが零れた。それにしても賢い猫だ。
白猫を目で追っていたら、白猫の身体がキラリと光り目を逸らす。
陽の光に照らされて反射したのかもしれない。
んっ、反射するのか。ふとそんな疑問が湧いたが気にしないことにした。
野々村浩平は再び、白猫へと目を向ける。あれ、いない。白猫は消えていた。どこへ行ったのだろう。右も左も目に映るのはシャッターの閉まった店舗だけ。ちらほら開いている店はあるが、ここの商店街はほぼシャッター通りと言える場所になってしまっている。
交差点にあるパン屋には、今月末で閉店致しますとの貼り紙があった。またひとつシャッターの閉まったままの店が増えてしまうのか。
日曜日の昼日中だというのに、人通りが少ない。かつてここの商店街も活気があったはずなのに。
浩平は嘆息を漏らして一歩前に足を進めたところ、突然クラクションが鳴り響き慌てて後退した。横断歩道の信号は赤に変わっていた。運転手に睨まれてしまい頭を下げて通り過ぎる車を見送る。
何をしているんだか。さっきの白猫がいたら笑われたかもしれない。
ふと付き合っている年上の女性のことが頭を過った。
「ボウッとしちゃダメでしょ」
なんて声が聞えてきそうだ。
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