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「諦めが悪い男です」  差し出されたグラスを受け取る。  ここは新宿にある、とあるビルの中。「rumble fish」というBARだ。ここでは斉宮が何食わぬ顔でバーテンダーに収まり、酒を作っている。この男が『peur』を束ねていることを知る人間はそう多くない。 よくわからないが、わたしを買ってくれているらしい斉宮は、あっさりあの日身分を明かした。  パターン1の「サイ」と呼ぶ男だってかなり少ない。それを言うなら、裕も「マル」と呼んでいる。 「何かやらかしました?」 「宿泊者名簿を開示させようとしています。父親の威を借りて。あとは、あなたが渡した名刺の会社に何回もコンタクトを取っていますね。 一度買えると味をしめたら際限なさそうなタイプだったから、ああいう近づき方をしたというのに、結果は大差なし。これ、記念にとっておきましょうか?」  ホテルの名前がヘッドに印刷された便箋。わたしは身体を引きずっていたし、女装もしなければならなかったから、置手紙どころではなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ このまま部屋で待っていてくれ、なにかあったら連絡を 090-■■■■-□□□□ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あの状況でおとなしく部屋で待つと考えるほうがおかしくないですか? あんなにヤリ倒しておいて、待っていてくれだなんて」 「何事も傅かれて育ったボンボンですから。でも直筆ですから保管しておいて損はない……ふふふ」 「騒がれるのも、今後に差し支えるのも迷惑ですよね。どうしますか?前日に収録した女のネタをちらつかせますか?」 「まあ、その程度で黙るでしょう。奥さんに知れたら大変です。今後の出馬に影響しますから」 「じゃあ、責任もって潰してきますよ。恋心を」 「それでは、お願いします」
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