林の奥の本屋

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 昨日の雨が嘘だったみたいに、空はからりと晴れていた。私は陽射しを取り込むために、閉ざされていた窓を大きく開け放つ。 「…素敵な天気」  店の前に広がる小さな庭は、朝露に濡れた葉がきらめいて白く輝いていた。手入れが行き届いている整った庭というわけではないけれど、木々に囲まれたこの場所にはふさわしい小さな花園が私は好きだった。 「よし」  私は朝の空気をいっぱいに吸い込むと、ブラウスの袖を捲り、店を開けるための準備を始める。  はたきで全部の本棚の埃を落とした後、箒で床を掃き、古ぼけたカウンターを布巾で水拭をする。毎日やっていることだから、どこもそれほどの収穫はなかった。  開店の準備はすぐに整い、私はお店が開いていることを知らせる手作りの赤い旗を手にお店を出る。  荒れた庭を通り過ぎて、木漏れ日の差し込む林を抜けると、そこにはいつもと変わらない町並みが広がっていた。  二階建ての煉瓦造りの建物が立ち並ぶ、それほど大きくはない町。この国の王都からそれほど離れていない、山の麓にある緑豊かな私の故郷。  まだ朝も早いのにみんなもう今日を始めているようで、町は穏やかな喧騒に包まれていた。私はお店の看板の隣にあるポストのところに持っていた旗を飾ると、お店に帰るべく町に背を向けた。  けれどふと、何かに呼び止められたような気がして振り返る。
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