林の奥の本屋

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「…?」  もちろん誰もいない。朝はみんな開店の準備をしたりお祈りをしたりと忙しいから、この時間に町外れに来る人は少ない。  不思議な気持ちを抱えたまま、帰ろうかと思い再び林に向き合った瞬間、その音が鳴り響いた。 「…!!」  何度も山に反射して、幾重にも重なって聞こえる王都の鐘の音。王家の人が、民に王国の朝を告げるものとして鳴らしているため、鳴る時刻は定まっていない。今日はいつもより少し早い気がする。  私は王都の方を向いて、膝を折りながらお辞儀をした。彼らへの忠誠を誓う作法として小さい頃からやってきた習慣だけれど、今は少しだけ気持ちが違う。  あの場所には私にとって唯一残された家族が居るんだ。もう長く会えていない気がするけれど、きっと今日も頑張っているはずの彼に、私は敬意を込めてお辞儀をした。  再び頭を上げると、真っ青な空が目を焼いた。  今日は本当にいい天気だ。私は笑みが漏れるのを感じながら、再び林の中にあるお店に戻った。  ドアに取り付けられたフックに小さなベルをかけて、開店準備はおしまい。 「今日はどんな人が来るかな…」  ここは、いつも人で賑わうようなそんな活気のあるお店ではない。お客さんも、一日に多くて十人くらい。けれどふと思い出した時に誰かが立ち寄ってくれる、そんな場所でありたいと思う。  しばらく、私はひとりカウンターで読みかけの本を読んでいた。昔は西の方に居たという、魔女のお話。今は魔女なんて居なくなってしまったと言われているけれど、もしかしたら本当は今も西の山奥に魔女の村があったりするのかもしれない???なんて、そんなおとぎ話が現実にあったらいいのにと、私は本を読みながら夢を見る。
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