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龍一は、無造作に死体を蹴り転がして、ドアの前を塞ぐ。
本気で入って来ようとすれば何の役にもたたないバリケードだが、仲間の死体に僅かでも動揺してくれればいい。
ターゲットは、もう目の前だ。
床に広がる血をピシャリと踏んで、龍一は歩を進める。
草壁隆也の顔は、データで見ていた。
目の前の男で間違いない。
ただ草壁は、車いすで起き上がれるようになったばかりという情報の通り、青白い顔でやせ細った腕には点滴の針を刺していた。
その針を強引に引き抜いて、草壁は龍一から逃れようとしている。
ベッドの向こう側へ。
そちらに銃でも隠しているのかと思ったが、車いすに乗り移ろうとして失敗し、無様に床に転がり落ちただけだ。
草壁は、
「ヒィッ、ヒイィィィッ」
龍一が悠然と歩いてくるのを、悲鳴ともつかぬ声をあげながら、車いすによじ登ろうとしている。
「草壁隆也か?」
つい、聞かずもがなのことを問うてしまったのは、この男が、日本中を恐怖にたたき落とし、政府を脅してきた、開くも卑劣なテロリストの親玉だとは思えなかったからだ。
「ヒィッ、ヒィッ……」
車いすに手をかけてみっともなくもがく男は、あまりにも情けない姿だった。
だが、
「……」
草壁の腕には、なるほど、点滴が刺さっていた他にも、注射針の痕が認められる。
どうやら代永組によって、他のクスリも使われたらしい。
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