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3―歩きだす二人
奴隷として売られてからは、不安や恐怖をこの小さな体に押し殺して日々を送っていたのだろう。一年間、言葉通り終わりの無い暴力を振るわれ続け、身も心も擦り減っていたはずだ。
ロロアの話を聞き終えた俺は、頬を伝う小さな瞳から零れた涙をそっと指先で拭ってあげた。
まずはロロアの傷を癒してあげないと。裂けた皮膚は見ているだけで痛々しい。
鞄から下級ポーションを取り出すと、心底アイテムバッグがあって良かったと思えた。VRだと、打撲や裂傷はこれを飲めば治癒される。
水石の様な魔石の類が使えた事といい、鞄の中の物はVRの時と効果も変わりなく使用できるはずだ。
「これを飲めば傷が癒える」
そう口にしてロロアにポーションを差し出したが、ロロアはポーションを知らないのだろうか。透明の卵型の小瓶に入っている真っ赤な液体を見て、少し恐ろしげな表情を見せたあと、顔を強張らせてしまった。
俯くロロアを見ながら、俺はやってしまったのかもしれないと思った。
俺は見慣れているから赤い液体を見ても何とも思わないが、これを知らない者が唐突に血の様な液体を飲みなさいと言われて何とも思わないはずがない。
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