『さかしまサーカス』本文

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「僕は天使だよ」  横目で見る少年の背中は、薄かった。 「翼は、」 「影男に盗まれたんだ。今はあの男の所有だよ。天女の羽衣みたいに、あれがないと僕は自由になれないって訳」  少年は両手を広げ、スカートをひるがえして回った。髪に結んだリボンが、夢のような曲線を描いた。  そうだ、天使だと、悠土は認めた。え? と、少年が訊き返す。よく見ればスカートの端が焦げていた。皺だらけだし、マスタードソースの染みもついているし、おまけに裸足だった。 「君はずいぶん自由に見えるけど」  少年は頸を傾げた。 「そう?」 「君たちは、自由だよ」  さざなみの音が、絹のように聞こえる。少年が囁くように訊ねた。 「君に無いのは、自由?」  悠土は頷いた。
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