ブレーキを踏み外した夜

27/27
294人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
今まで寝た女とは、全てが違う。 その甘い声も、潤んだ瞳も、白く綺麗な肌も。 そして、一人の男を一途に想う純粋な心も。 彼女の何もかもを手に入れたいと本気で思った。 「……樹さん。俺、欲しいです」 「何、を……っ」 与える刺激に仰け反り、甘く喘ぐ彼女を見つめながら、聞こえないくらいの声で呟いた。 「あなたの、全てを」 ブレーキなら、この部屋に彼女を入れた瞬間から目の前に見えていた。 いつでも踏みとどまれると思っていた。 でも、俺は踏み外した。 見守るだけでいい。 ずっと好きだった人が、俺以外の男に恋をしても。 好きな人が幸せになるのなら、それでいい。 純のときは、心からそう思えたのに。 自分の手で誰かを幸せにしたいと思ったのは、人生で初めての経験だった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!